“「等身大」の自分で、受け入れて生きていく”
~NPO法人箕面こどもの森学園 中尾有里(なかおゆり)さん~
箕面市小野原にある「NPO法人箕面こどもの森学園(以下、箕面こどもの森学園)」は、市民によってつくられたオルタナティブスクールです。そこではたらく中尾有里さんにお話を伺いました。
「学校」というより「家」のような小さな明るい木造校舎。学園長の辻正矩(つじまさのり)さんに案内されて教室に入ると、1年生から6年生までの子どもたちが一緒に机を囲んで「夏祭り」の計画について話し合っています。友だちの意見に耳をかたむけて、お互いが納得いくように自分のことばで意見を交わす子どもたち。
ここは、「NPO法人箕面こどもの森学園(以下、箕面こどもの森学園)」。箕面市小野原にあるオ
ルタナティブスクールです。
(オルタナティブスクール…欧米の自由教育の思想と実践に影響を受けた人たちがつくった、独自の教育理念と方法を掲げた学校)
今回は、箕面こどもの森学園で働く中尾有里さんに、そこでのお仕事、大切にしていること、この学園ではたらくきっかけとなった学生時代のことについて、お話を伺いました。
●自分らしさを大切に、主体性と自立性を育む
箕面こどもの森学園は子どもの主体性や自立性を育てる学校があってほしいと願う市民によってつくられました。子ども自身が生活の中から生まれる興味関心をもとに学習計画を立てることができ、自発的な学びを大切にしたカリキュラムが展開されています。また、地域のNPOやつながりのある団体、人を巻き込んだイベントも子どもたちが企画し、学園の魅力の一つになっています。
この学校の大切にしていることとして、「市民がつくる、市民を育む」ということばがあります。社会課題も自分の気持ちもほったらかしにするのではなく、しっかり見つめ、行動していけること、同時に他者を受け入れ、多様性を認めていけることを意味します。
●手ごたえを感じるとき、大切にしていること
毎日が楽しい、という中尾さん。子どもたちの表面に見える変化だけではなく、根っこにある「自分は自分でいい」と自分自身を受け入れる気持ちが育まれていると感じたときに、嬉しい!と実感するそうです。
団体として、箕面こどもの森学園のスタッフとして、また人生においても、完璧でいる必要はなくて、「等身大」でいることを大切にされています。
“自分の足りないところを受け入れて、人を頼りながら生きていく、ということが本当の「自立」だと思うんです”
●学生時代のこと
「ラテン系がよんでいる!?」
大学1年生のときは高校のOB楽団で吹奏楽に、大学2年生では学部のフットサル大会の企画・運営に没頭していたという中尾さん。2年生の春休みにスペインに短期留学へ。
“スペインが呼んでるって。スペイン語全く話せなかったんです。けれど、ラテン系が私を呼んでるって思って。それで留学の志望を出したら通っちゃったんです(笑)。
現地の生活のあらゆる場面で「なぜ?」と聞かれた体験から社会の中で生きること、自分の人生をもっと面白くするには物事を根本から考えるのが不可欠だと思うようになりました。今まで当たり前だと思っていたことも「なんで?」と考えるきっかけになりました”
「就活で気づいた違和感、教育に関心を持つように」
大学3年生になると就活をはじめた中尾さん。けれどもその中で、迷いを感じている自分に気づいたそうです。「選択肢を無理やり出してきて迷いたかったんだと思う」と振り返ります。
“本当はもっと多様な生き方や働き方があるはずなのに、周りの大学生は大企業に就職しようとすることが当たり前で、その選択肢の中で選ぶことしか考えていない。このシステムって意味わからへんな、と思ったんですよ。かと言って、当時の自分にも大して選択肢がなく、もどかしくて、自分ってなんやろうと思いました”
そうして考えて思い当たったのが、それまで全く興味のなかった「教育」でした。自分が受けてきた教育によって、無意識に決められたレールの上をずっと走っていたことに気づき、ショックを受けたそうです。
“そんなことを思ってしまう自分ってなんて恩知らずなんだと思って。自分を育ててくれた親や、過去の自分を否定するようで、どう生きていったらいいかわからなくなっちゃったんです”
悩んだ末に中尾さんは就活をやめ、休学することに決めました。
「和歌山の廃校で田舎暮らし、箕面こどもの森学園との出会い」
休学中、母親から渡されたボランティア情報冊子で箕面こどもの森学園の存在を知り、ボランティアとして参加することに。
また、和歌山県新宮市でNPOが運営する廃校に住み込んで「まちづくり」を真剣に考えたり、面白い!と思ったことを手当たり次第実行したりしていた中尾さん。箕面こどもの森学園では初めは単発のボランティアとして関わっていましたが、新宮でお世話になっていた方の言葉をきっかけに、「目の前のことを深く見てみよう」と学習サポーターになりました。 二年間の休学を終えて大学に戻った後は勉強が楽しくてしょうがなくなったそうです。
“学ぶってそういうことかって自分なりに分かったんです。机上の学びばかりしていても自分の体験と結びついていなかったら意味がない。生きた学びをすることがどれだけ大切か、自分の身をもって分かったんだと思います”
「大学卒業。箕面こどもの森学園で働くことに」
“「就職させていただく」という感じではなくて、自分が何を担うかを自覚して就職しました。20代のスタッフが自分しかいなかった箕面こどもの森学園を「持続可能な団体にしたい」という想いがあったんです。次の世代にバトンタッチをしていかなければ、どんなにいいことでも、つながらない。だから「よし、私がやろう!」と思い、決めました”
●学生に伝えたいこと
最後に、学生に伝えたいことをお聞きしました。実はこの質問に答えていただいたあとで「上から目線になってないかなあ」と気にされていた中尾さん。けれども中尾さんが大切にされてきた幹の部分、人となりに触れられた気がします。
“順調に悩んでほしいなって思います。“悩む”ってことは自分の可能性を切り拓くことだと思うんです。だから、私は悩みを無視しないようにしています。ザワザワする気持ちを見逃すのは楽だけど、その気持ちに向き合い、考えることで自分を受け入れられる人になってほしい。そこを見つめるといろいろ考えてしまう。けれど、そこが大事なんじゃないかなって。自分が社会を見たときに動けるかどうかや、自分に何ができるかを考える始まりだと思うし、それって、自分が自分をどれだけ信じられるかのチャレンジでもあるから、結構しんどいですけど大切にしてほしいなって思います”
現在、箕面こどもの森学園では中学部開設を計画しています。スタッフだけでなく、保護者や子どもも一緒に「みんなの自分ごと」として協力しあいながら2015年4月を目標に進めています。
●書籍紹介
「こんな学校あったらいいな~小さな学校の大きな挑戦~」
辻正矩+藤田美保+守安あゆみ+中尾有里:共著
築地書館 1600円
●イベント紹介
☆第23回教育カフェ・マラソン〜話題提供者:磯井純充さん
・9月19日(金)18時30分〜20時50分@箕面こどもの森学園
・参加費:500円(高校生以下無料)
…対話する文化を深めること、そして輪が広がることを願い、100回の開催を目指しています。今回の話題提供者は、まちライブラリー提唱者の磯井純充さん。まちのカフェやオフィスの一角にある本棚を介して人の「縁」をつなぐ活動をはじめられました。
前半は磯井さんから全国に広がる実践やその想いをお聞きして、後半は参加者でグループトークをします。
●基本情報
正式名称 NPO法人箕面こどもの森学園
住所 〒562-0032 大阪府箕面市小野原西6丁目15-31
TEL&FAX 072-735-7676
Eメール kodomonomori@nifty.com
設立年 2004年
生徒数 18人
スタッフ数 22人(1週間に1回の人、音楽や科学だけ担当の人、毎日来る人など「できる人ができる時にできることを」引き受けながらなりたっています。その他に外部講師も様々。)
HP http://kodomono-mori.com/
コメントをお書きください
na tej stronie (土曜日, 04 11月 2017 00:26)
fotofon