北村耕太郎さん(D-SUPPORT INNOVATION代表・株式会社Ecold代表取締役)取材レポート

 

■「発達障害」と「二次障害」

昨今、事件や犯罪と発達障害がセットで語られることが増えていて、発達障害だから犯罪や事件を起こすという偏見や誤解を招くようなニュースやコメントも多くみられます。東海道新幹線での無差別殺傷事件や、吹田市警察官襲撃拳銃強奪事件もそうでした。しかし、実際には発達障害が直接原因ではなく「二次障害」という外的要因が深く関わっているということへの理解は進んでいません。

 

発達障害があると、もともともっている障害特性に加えて、いじめ、虐待、ハラスメント、理不尽な扱いを受けて自己評価や自尊心が低くなり、社会に対する過剰な不安や恐怖感をもってしまうことがよくあります。そのうえ本来のコミュニケーション能力の問題から、助けを求めることができずに孤立してしまい、さらなる生きづらさを招いてしまいます。

発達障害は生まれもったものなので根本的に治すことはできませんが、「二次障害」は人々の理解や関わり方によって防ぐことができます。

「二次障害」は小学校から思春期の時期に起きやすく、周囲の理解がなかったり、環境が悪かったりで強い劣等感や反抗心などが生まれ、不登校、家庭内暴力、ひきこもり、非行、過食、自傷行為などに陥りやすくなります。「二次障害」が起きてからのケアはかなり大変ですから、幼児期、学童期に親や教師、周りの人たちが発達障害のことをしっかり理解して関わり合うことが大切です。

 

発達障害と二次障害に関する研究や取り組みは多々ありますが、今回の取材では、先駆的なアイデアを導入しながら、「発達障害の子どもたちを二次障害にさせない社会つくり」に取り組まれている、特定非営利活動法人D-SUPPORT INNOVATIONの代表であり、株式会社Ecoldの代表取締役である北村耕太郎さんにお話をお聞きしました。

明るくて元気で人懐っこく、クラスに必ずいる人気者のような雰囲気の北村さん。しかし、そのお話からは、なかなか紆余曲折で現在に至ることがうかがえました。

 

■「療育」×「テクノロジー」というアプローチ

北村さんが取り組まれていることは大きく分けて二つ。療育と、学習環境・子育て環境の整備です。療育とは障害のある子どもに対して、それぞれの特性にあわせて発達を促し、社会の中で自立していけるように支援する取り組みのことで、その取り組みを専門的に行うのが療育施設です。北村さんが代表を務める株式会社Ecoldは療育施設の運営と、療育支援を目的としたロボットアプリや教材の開発を行っています。

 

療育にロボット!?

いったいどのように活用されてどんな効果があるのでしょうか。

 

詳しくお聞きすると、ソフトバンクロボティクスの人型ロボットPepper(ペッパー)くんに療育訓練用のプログラムを搭載し、ペッパーくんが動物の動きを真似したり画面に画像を映して、子どもたちはそれが何かを当てるというように、説明に動きや絵を加えることで知識不足を補い、子どもたちが楽しみながら訓練できるというものです。吹田市の障害児保育園に導入されているそうで、今後もっと発達障害の子どもたちが通う療育施設、保育園、幼稚園、学校などあらゆる機関で使用してもらえるような環境整備を目指して普及を促進されています。

またその他には、発達障害児の親の会の運営や、施設設立・運営のコンサルティング、講演会・研修の企画運営など、社会全体で課題に取り組む活動もされています。

ecoldさんより写真2点お借りしました)

 

 

■一度あきらめた夢の実現、そこから生まれた新たな想い

北村さんはどうしてこのような取り組みを始められたのか? その経緯をお聞きすると、実はご自身も「吃音(きつおん)」という障害があって、子どもの頃は、からかわれたり勉強が苦手で、小学校と中学校にはあまり行かず、自己肯定感も低かったとのこと。そんな北村さんが変わるきっかけとなったのがラーメン屋さんでのアルバイト。学校とは違って勉強が全てではない世界、自分の能力をいかに仕事で活かすか、誰かのために何かをすると喜んでもらえる達成感があった。自分が自分らしく生きられ、物ごとを見る視点があがり世界が広がったそうです。そこで自信がついた北村さんは、さらに、アルバイト仲間の考え方や生き方の影響もあって、子どもの頃にあこがれだった警察官になろうと一念発起すると、かつてないほど猛勉強して超難関だった警察官採用試験に見事合格、夢を実現しました。

その後、刑事として事件や犯罪と関わっていくうちに、加害者や被害者になるのは二次障害との関係が深いということを知り、社会課題として何とかできないかと感じていたところ、ご自身のお子さんが発達障害であることがわかりました。北村さんが療育のことを知ったのはその頃で、二次障害を防ぐことが、発達障害者を犯罪に巻き込まない、自律していける大人になることに繋がると考え、刑事を辞めて「発達障害の子どもたちを二次障害にさせない社会つくり」に取り組むことにしました。まずはNPOを立ち上げ、「とにかく3年!それで芽がでなければあきらめる!」と目標達成期限を決め、3年間必死に勉強と活動に励み、株式会社Ecoldを起業するまでに至りました。

 

「社会を変えたいんです。警察官として自分ができることには限界があった。二次障害を防ぐには社会全体が変わらないといけない。今、自分がしていることで障害をもった子どもたちを救うことができる」と強いまなざしで語る北村さん。ご自身の経験を元に積み重ねる努力と突破力、そして先駆的なアプローチに今後も注目です!

 

◇株式会社Ecold

https://www.d-forum.org/

◇北村耕太郎さん 著書 「公認心理士のための臨床心理学」

https://www.fukumura.co.jp/book/b471549.html

 

 

(レポート:TK)