今、大阪府で学校内に教室でもなく家でもない第三の場所(サードプレイス)を設ける「校内居場所カフェ」という取り組みが広がってきています。この取り組みは全国でも注目されていますが、大阪府で広がっている背景には高校生の中途退学率の高さがあげられます。文部科学省によると、全国の高校中途退学者は2018年度で4万8594人。不登校児童数は328万6529人。その理由は「勉強についていけない」「クラスメイトとうまくなじめない」といった学業や学校生活への不適応割合が大きく、問題を抱える生徒の多さを表しています。そして大阪府はどちらも全国比率のワースト上位にランキングしています。
大阪府はこの課題解決のため、高校内における居場所のプラットホーム事業として、学校や家庭に居場所のない子たちを多面的に支える校内居場所カフェづくりに民間団体と協働で取り組んでいます。2012年秋に西成高校、翌年6月の箕面東高校を皮切りにその後、桃谷高校、長吉高校、春日丘高校(定時制)などと広がってきています。民間団体が一緒に取り組むことで、教員や親以外の大人と関わりがもて、生徒たちが教員や親には言いにくいことも話せる場となります。
校内居場所カフェのことをもっと詳しく知るため、今回の取材は、箕面東高校の「めいぷるカフェ」を訪れ、教育相談担当の森本先生と、めいぷるカフェを協働運営されているNPO法人FAIR ROADの阪上さんにお話をお聞きしました。
■「相談室」には相談がないから行かない
2013年にスタートした「めいぷるヵフェ」は平日に開かれていて休憩時間と放課後にはたくさんの生徒でにぎわいます。相談室には相談がないと行きにくいという生徒も気軽にやって来て、おしゃべりしたり、音楽をきいたり、遊んだり、それぞれ自分が好きなことをして過ごしています。居場所カフェでは、そのリラックスした空間ならではの雰囲気で、まだ深刻なレベルになっていないようなちょっとしたことも何気なくつぶやくことができます。森本先生や阪上さんが生徒と話すときも相談を聞くという姿勢ではなく同じ目線で、会話の中にポロっとこぼれる悩みや不安をひろいあげるそうです。
「めいぷるカフェ」の場所自体は以前と同じ相談室ですが、居場所カフェに変わってからは部屋に来る生徒が約20倍に増えたそうで、なかにはクラスや学年を超えて友達になった子たちが一緒に何かを成し遂げる仲間になったり、他のグループに力を貸したりと、新しいつながりができることもあるそうです。
「居場所とはアポイントが必要な場所ではなく、特定の日だけ設けられるものでもない。自分が行きたいと思うときにふらっと行ける居心地のよい場所。それが居場所です。全ての学校に居場所カフェが存在することが理想です。人との出会いを多様化し、多彩な経験をすることが必要です」と森本先生は言います。
■「不登校予備軍」「潜在的な不登校」の存在
「早退や遅刻が多い」「登校しても教室には入らない」「教室には入るけれど授業に参加していない」など、まだ不登校にはなっていないものの不登校傾向の子たちを「不登校予備軍」や「潜在的な不登校(欠席日数に表れない不登校傾向)」と呼びます。
彼らに何か特徴や共通点のようなものはあるのかお聞きすると、まず、この質問自体が間違っていると答えられました。
不登校とは、何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因・背景により登校しないか、したくてもできない状況にあるために年間 30日以上欠席した者のうち、病気や経済的な理由による者を除いたものと表されるとのこと。体調が悪くて休む場合、精神的につらくて休む場合、あるいは、学校や勉強が嫌いで休む場合、いずれであっても、たとえば一ヶ月に3日程の欠席(連続でない欠席)を一年間続けた場合は欠席日数が年間30日を超えてしまいます。不登校予備軍というのは、一ヶ月の出欠状況を見て、このままのペースで学校を休み続けると不登校になってしまう可能性がある生徒のことをいうそうです。
「もし、何かしらの共通点を挙げるとするなら、彼らには『居場所』がないのです」と森本先生は言います。
また、「いったん不登校になると再び登校を促すのは難しく、引きこもりやニートになってしまうと社会と断絶されてしまう。そうなる前の段階でケアすることが大事です。気軽に足を運べる居場所を心のよりどころにして、学校に行きたいと思う動機につながれば」と阪上さん。
学校や家庭に居場所がないと感じている子たち、卒業後に進学や就職といった所属を失って孤立してしまう子たち、そういった子たちが社会とのつながりを失ってしまう前の予防支援として居場所カフェというサードプレイスが重要な役割となっていることがうかがえました。
取材当日は、実際に生徒たちがカフェに居る様子も見させていただこうとお昼前にお邪魔したのですが、休憩時間のベルがなって5分ほどで部屋が満員になり、取材の声は掻き消されるほどの賑やかさ。生徒たちの表情も活き活きとしていてとても楽しそうでした。
取材の最後に先生と阪上さんお二人の写真を撮影していると、緊張気味の森本先生に生徒からの「先生は笑っている顔が素敵なんやから、もっと笑わんと!」という一声で先生もリラックスの笑顔になり、「めいぷるカフェ」を通じて築かれた信頼関係も垣間見ました。
「支援をするにはまず関係性をつくることから」と阪上さんは言います。
大人に警戒心をもっている子たちは相談する「大人」と「場」があってもなかなか心を開くことができませません。「信頼関係」が積み重なってこそできるのでしょう。
私の高校時代にも「めいぷるカフェ」のような場所と森本先生や阪上さんのように子どもたちの未来のために真摯に向き合ってくれるステキな大人が側にいてくれたらよかったなと、箕面東高校の生徒さんたちがとてもうらやましく思えました。
「めいぷるカフェ」は学校の中にありながらも地域に開かれた場で、ボランティアなどで関わることもできるそうです。関心のある方はNPO法人FAIR ROADへご相談を。ホームページやSNSではカフェの日常の様子も見れます。
■NPO法人FAIR ROAD
◇ホームページ https://fairroad.org/
◇facebook https://ja-jp.facebook.com/fairroad.can.change.the.world/
■箕面東高校
(取材日:2019/9/10 レポーター:YN)